無法の世界
データ分析は正直すぎる
新聞を開けば AI ネットを見ても AI どこにでも AI が登場する AI 全盛時代ですが, 個人的にその傾向には警鐘を鳴らしたい(笑).
僕も市場分析には統計解析や機械学習を使用していますが, そのようなアプローチで分析可能な領域は価格変動の持ちうる可能性全体に対して極めて限定的な範囲に留まると考えています.
定量解析は価格が現在どのような状態にあるかを正確に評価するのが非常に得意です. しかし, 価格の現在の状態と将来の状態に関係性が生じないのがカオス時系列です.
直近の価格情報を基に市場の強弱を測定し, それに基づいてシグナルを生成するストラテジーを設計しても, そのような素直すぎるポジションは目ざといトレーダーにより簡単に狙われてロスカットとなってしまいます.
定量解析は過去の価格変動に対する数値解析をベースとします. 価格がランダムウォークする投機市場では過去の価格変動と未来の価格変動の間に因果関係がありませんからヒストリカルデータを分析しただけでは将来の予測ができないのです.
どんなに複雑なアルゴリズムを使おうと, 絶対にこの定義を覆すことは不可能です.
単純な移動平均ロジックでも, 機械学習でも, なんら変わりません. 分析対象としているデータの問題です.
これが例えば画像認識の世界なら話が違います.
スマホの顔認証とかで使われる技術では, カメラから取得した画像データを過去の本人画像と比較して適合度を判定するのですがこの場合, 正解がランダムに変化したり, 外部環境が激変するようなことは滅多に起こりません.
単純に精度の問題ですから, より高度な技術を使うことでモデルの予測能力は確実に向上します.
対して市場では未来の将来の価格は常にランダムに決定されますし, ファンダメンタル環境の変化によりダイナミックに値動きの特性が転換します. このようなデータを扱う場合, モデルを高度に複雑化してもリターンは改善しません.
「ストラテジーコンセプトはシンプルに」という決まり文句はここからきているわけです.
モデルの高度さ, 複雑さが収益と無関係であるとすれば, どのような要素がモデルの収益率を高めることに繋がるかを考える必要があるということになります.
そのためには「ターゲットとする値動きを明確化して最適なモデルを設計する」プロセスが必要になります.
マーケットとは何か
僕はマーケットを「合法的に金の奪い合いができる場所」と捉えています. カジノとかに似ていますね.
勿論それだけが全てではありませんが, 投機に賭博的側面があることは事実です.
ギャンブルとトレードで似ている部分はたくさんありますが, その一つが収益源です.
ギャンブルで利益を得るには他の参加者のベッドした賭け金を奪うことがベースコンセプトとなります. この場合, ギャンブラーの収益源は他の参加者の掛け金です.
ここは相場と共通していますね. 短期トレードにおいて, トレーダーの収益源は常に他の参加者の賭け金です.
他方でギャンブルとトレードで異なる点もあります. それは現実社会との関係性です.
カジノで使われたカードの枚数や出たサイコロの目が現実社会に影響与えることはあり得ません.
対して市場の価格変動は直接的に実体経済に影響を与えます. 換言すれば, 金融マーケットは純粋に投機的なギャンブルとしての側面と, 実体経済とのインタラクティブな関係性という 2 つのファクターが同時に共存する場所といえます.
よく投資本にファンドの年利が 10% とか 20% とか紹介されていますが, そのようなファンドが使用しているロジックはマーケットの実体経済的側面にフォーカスしたものであることが多いです.
彼らはテクニカル分析を使用することはなく, 関係筋の情報ネットワークを基に長期予測を組み立てて, ポジションを構築し, 数ヶ月から数年間保有を継続するようなモデルを採用します.
ポートフォリオによる分散や資金管理ロジックが重視され, リスク管理について高度なアルゴリズムが適用されます. また市場の不確実性についてもマーケットニュートラル戦略(ターゲットとする値動きに付随するノイズをヘッジポジションにより相殺する)を採用することで回避することを試みます.
これがプロップファームとか新進気鋭ファンドとかになってくると話が違っていて, かなり大きなリスクテイクをしますから 100% を超えるリターンとかザラにあります. 逆にとんでもないドローダウンを出すファンドも沢山あります. リターンの標準偏差が大きいわけです.
彼らの収益源は他の参加者のロスカットです. 様々な手法を使ってより多くのトレーダーのロスカットが集中するポイントに価格を誘導しようとします. また取引は非常に短期的で, 他の参加者の賭け金を巻き上げると素早く資金を引き上げてしまいます.
彼らは短期的なエッジを活用して, 賞味期限が切れるまで利益を絞り出し, エッジが消えたと判断したら次々に戦略を切り替えていきます.
このため, 短期的にみると値動きは極めてランダムなものになります. ランダムにモデルを変化させる参加者同士の資金の奪い合いが相場を形成するからです.
他方で長期的にみると値動きは実体経済を反映して, 明確な特徴を持ったデータとなります. 中央銀行の政策や企業収益などの影響が市場で顕在化するには一定の時間が必要なのです.
最適なメソッド
投資リターンを投機市場で狙う為には十分な資金量とポートフォリオ戦略に加えて, ヘッジ戦略も必要になります. その上でリターンは年利 10% とか 20% になります.
このような戦略が実装できない, またはリターンに満足できない場合, 投機市場でトレードすることになります.
そこで生き残るにはどうすれば他人の金を奪えるか, どうすれば他人から金を守れるかを徹底的に考えることが必要になります.
どのような目標を持ってトレードに取り組むのかは人それぞれです.
年金を安定的に長期運用したい人もいれば, 少ない資金をアグレッシブに回転させて一獲千金を狙う人もいるでしょう.
その全てに共通する前提として:
- 達成したい目標が非現実的なものであるほど, 取引期間は短期的となり, 実装するストラテジーの投機性が高まる.
- 達成したい目標が安定的なものであるほど, 取引期間は長期的となり, 実装するストラテジーは高度に複雑化される.
このことを忘れないことが大切です.
自分の投資目的を明確をにして, 目的に沿ったストラテジーを設計する必要があります. あなたが参加するフィールドで待ち構えている他の参加者がどのような面子であるのか知らなければなりません.