Takehana Lab

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聖杯のメタファー

トレーダーを志す方なら誰もが "聖杯" という言葉を聴いたことがあると思います. 今回は僕の考える聖杯の定義を掘り下げます.

聖杯の定義

トレードにおける聖杯(Holy Grail)という言葉は日本で生まれたものではなく, もともと海外で生まれたものです.

その語源は有名な神話学者ジョセフ・キャンベルによって紹介された神話のメタファーです.

高度な神話研究で知られる彼の著作に登場する聖杯は, 主人公が非日常的な神話的な旅に出て, イニシエーション(通過儀礼)を経て元の世界に帰還する過程で発見される "大いなる祝福" のようなものです.

そして主人公が聖杯を通して学び取ることは毎回必ず "本当の自分自身" なのです. つまり主人公の神話としての旅とは "本当の自分自身を知るための旅" と考えることができます.

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聖杯の解釈

一般的なトレーディングにおける聖杯のイメージはジョセフキャンベルのそれとは大きく異なっていると言わざるを得ません.

どちらかといえば水晶玉を持った占い師のイメージが強いのではないでしょうか.

多くの方が聖杯と称される取引手法に触れたことがあるでしょうし, そのようなメソッドの大半が無価値であることをご存知だと思います.

例えばギャン理論やエリオット波動, 一目均衡表, フィボナッチハーモニクスなどの一般的な相場理論は あくまで僕の個人的な意見ですが このような聖杯に該当すると思います.

価格変動に何らかの特別な構造があってそれを知ることができれば, 未来は一定の確率で予測可能と定義されており, その解釈が主観的かつ論理的根拠に基づかないためです.

このような理論がもてはやされたのは時代の影響もあります. 当時はインターネットなどなく, 情報が枯渇していたためトレードに関する様々な情報をトレーダー同士で共有することができませんでした.

そのため, 特定のメソッドが有効なものであるかどうか客観的に考察するのが非常に難しかったのです.

今なら T2W や future.io などいくらでも情報共有の場がありますが, 当時のトレーダーは無数の選択肢の中から有効と思われる分析手法を自分だけの手で検証する必要がありました.

勿論パソコンもありませんしチャートも手書きです. そんな状況では一見高度に感じられる完成された手法に惹かれるのは無理からぬことです.

何しろ当時はただの移動平均クロスオーバーストラテジーが億単位で売られたりしていたのです. 商材屋にはいい時代だったわけです.

現代の聖杯

トレーディングに関する情報がネット上で共有されるようになってから, このようなメソッドが有効だと考える人はほとんどいなくなったのではないかと思います(時折スレッドや書籍でこれらの手法を論じたものを見ることがありますが, まともなトレーダーは見向きもしないでしょう).

一方で誰もがコンピューターを所有する時代になるとインジケータによる定量解析法が流行するようになりました.

今では "取引手法" と GOOGLE すれば無数のメソッドがヒットします. その大半が複雑な指標の束を論理的な根拠なく組み合わせたデタラメなものです.

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このような手法を売り込むグルは, 聖杯のメタファーを上手く隠します. つまり "利益も損失も出るが, トータルではプラスのリターンが得られるメソッド" として売り込むわけです.

このブログで以前マーケットがいかにランダムであるかについて論じました.

takehana13.hateblo.jp

この記事を読んでいただければ分かると思いますが, 金融市場とは動的モデルでしか定義できないデータの集合です.

サンプルの母集団を定義することができないのです. 言い換えれば毎日振るサイコロを変更する神様が価格を決定しているようなものです.

仮に自分がデータサイエンティストだとして, このようなデータの解析を命じられたとき, 静的なモデルを当てはめたらその時点で笑い物にされるでしょう. 市場構造が常に変化するのですからアプローチも変化しなくてはならないのです.

しかしインジケータシステムを売り込むグルは固定されたメソッド, セットアップを使えば常に安定して利益が得られると豪語します.

もうお分かりと思いますがある固定された, 静的なセットアップを厳格に実行し続ければ長期的にはプラスのリターンが得られる.という考え方は幻想です. これは本質的に水晶玉の聖杯メタファーと何も変わりません. 巧妙に隠されているだけです.

市場が動的である以上そのようなメソッドで安定した利益を得ることは不可能です. いわば動的な市場に静的なフォームを押し付けているのです.

もう一つの聖杯

このような現代的聖杯による詐欺を増長する, もう一つの要素がメンタル管理に関する理論だと言えます.

トレードに関する書籍を見ていると最近かなりメンタルに関するものが増えているように感じます. しかし, それらが語っていることはどれも本質的に同じことです.

長期的な視点でシステムを捉える, 確率的に考える, 目先のトレードに一喜一憂しないといったことです.

この件についても以前記事にしました.

takehana13.hateblo.jp

このような書籍の大半は, どこかにトレーダーの精神的聖域(サンクチュアリ)があって, そこにたどり着けばトレーダーはストレスから解放され自由にトレードできるようになると述べています.

書籍によっては扉を開けるだとか, 悟りの瞬間が訪れるだとか馬鹿げたことが書かれているかもしれません.

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宗教じゃあるまいし, このような説を真面目に信じる人はいないだろうと思うのですが, レビューなどを見ているとどうも真に受けている人がいるようなのです.

考えてみて欲しいのですが, 市場構造が動的に変化し続けているのに, あるアプローチを絶対的なものとして, それを機械的に繰り返すことにどれだけの意味があるというのでしょう.

市場構造が長期的にそのモデルに適さないものに変化して, 複雑化しても機械的に同じことを繰り返すのでしょうか. 機械的に確率的に損失が増え続けるだけなのは目に見えてます.

折角自由にものを考えることのできる人間に生まれたのに, 定められた命令を壊れたオモチャのように繰り返すメソッドを選択し, それを長期的に継続することにどれほどの意味があるというのでしょうか.

本当の聖杯

さて, これまで様々な偽物の聖杯について見てきました. では本当の聖杯はどこにあるのでしょうか.

最初のジョセフ・キャンベルの神話論に戻りましょう. 聖杯はどこか外の世界にあるのではなく自分自身の中にあります. あなたはそれを発見するのです.

まず, トレードのためのシステムを考えるとき最も重要な要素は目標設定です.

自分は今どのような状況にあり, どのような目標を持っており, どの程度のリスクが許容できるのか, それを実現するためにどのようなメソッドを適用しようとしているのか, それは実現可能なのか, それは合理的なのか, このような点について自分なりの回答を見つけます.

つまりトレーダーとしての自己分析をするのです. 就職活動のときと同じです.

そして, 決済ロジックの開発と資金管理(ポジションサイジング)に集中します.

先程までの間違った聖杯について考えてみて欲しいのですが, それらは全てエントリーのためのセットアップとトレード全体のメンタルについてのみ触れており, 決済戦略についてはほとんど言及しません.

これは人間が本能的に何かを支配し, コントロールしたいと考える欲求に根ざしています. 人間は自分や市場をコントロールしたいのです. それができないことに我慢なりません.

仕掛けるまではマーケットをコントロールできるかもしれません. 自分が求める物をマーケットが見せるまで待てばいいからです.

しかし一度仕掛けてしまえばトレードはトレーダーの手を離れ, マーケットは自分がしたいことをします. それをコントロールすることは誰にもできません.

また, 自分自身をコントロールしたいと考えます. 考え方を直したり, 世界観を変化させることで, 心をいつも同じ場所に(穏やかな場所に)固定しようとします.

しかしマーケットはトレーダーの都合など考えませんし, 不確実ですから, 頑張って考案したメンタル安定化のメソッドは予想もしない形で裏切られます.

決済戦略

市場という動的な対象と向き合うための本当の聖杯は決済戦略にあります.

相場の格言に "利食いは遅く, 損切りは早く" というものがあります. これはどちらも決済戦略のみに関するものです. 仕掛けのセットアップは無関係なのです.

決済戦略が何故重要かといえば, それが静的に定義可能なものだからです.

市場構造がどれだけ大きく変化しようと, 現在のボラテリティに従って定義された損小利大の決済システムを常に適用することは理に叶っています.

マーケットが変化すれば特定の仕掛け戦略はワークしなくなるでしょう. しかし, どのような形にせよ市場が変動を続ける以上, そこで行うトレードについてリスクリワードレシオを健全に維持することは必要不可欠なことです.

より優れた決済戦略(損失を最小化させ, 利益を最大化するもの)が見つかれば確実にリターンは安定します.

最終的に利益を得るために必要な唯一のことは利益の総額が損失の総額を上回ることです. そのためには決済戦略を最適化することが重要なのです.

金管

もう一つの聖杯は資金管理です.

各トレードについて, どの程度のリスクを割り当てるのかを決めるメソッドを考案する必要があります.

これが重要と考えられる理由も決済戦略と同じで, それが静的に定義可能なものだからです.

マーケットの構造がどのように変化しようと, 自分がどの程度の資金を各トレードに割り当てるかは 100% 自分で管理することができます.

一般的に有効なポジションサイジングのメソッドには, 例えば定率やパーセントリスクモデル, ボラテリティリスクモデルなどがあります.

いずれの資金管理メソッドもリスクを最小化し, 利益の最大化を目指しますが, それぞれには明確な特徴があり, 自分に適したものを選択する必要があります.

最終的に利益を得るために必要なことは "生き残ること, チャンスが訪れたとき利益を最大化すること" です. そのためには自分の取引手法に最適なポジションサイジングのメソッドを見つけることが必要になります.

結論

トレードにおける "聖杯" には多様な解釈があり, 現代のトレーダーの多くが求めている取引手法は預言者の水晶玉のような聖杯であって, 神話学者が定義したような真の意味の "聖杯" ではない.

本当の意味での "聖杯" は決済戦略と資金管理にあるが, ほとんどのトレーダーはその事実を認めない. 何故なら人間は何かを支配したいと考えるからだ.

常に心を穏やかに保つことのできる魔法のメソッドなどないし, 長期的にリターンを安定させることのできる魔法のセットアップも存在しない.

市場とはカオスであり, 残酷な現実を受け入れて賢く立ち回るものだけが生き残る.

iPhone がリンゴループになったときの対処法

ある意味当然のことですが, ネット上の iPhone 対処情報にはほとんどまともなものがありません.

僕も今回初めてリンゴループに陥り解決を試みたのですが, ネット情報はおろか Apple カスタマーサービスですら役に立ちませんでした.

一般にはリンゴループに陥ればセーフモードで起動するしかないとされています. しかし実際にはリンゴループに陥ればセーフモード起動はできません.

この状態から回復する唯一の方法は MAC と接続することです.

まず iPhone を強制終了させる必要があります. 電源ボタンと音量マイナスボタンを押してから iPhone が起動するのを待って, 電源ボタンを放してマイナスボタンだけを押し続けます.

これを繰り返すと電源が落ちるはずです.

電源が落ちたら, 次に MAC に物理アダプタで接続します. この状態で起動し, リンゴループをしばらく放置しておきましょう. すると MAC がやがて iPhone の異常を検知します.

そして画面上に iPhone の状態を改善するためヘルプが表示されるのでガイドに従って操作します.

トレードとドーパミン

トレーダーは裁量トレーダーであれ, システムトレーダーであれ, 誰もがドーパミンと戦う必要があります. 今回はトレードにおけるドーパミンの作用について解説したいと思います.

ドーパミンとは何か

ドーパミンはアドレナリンに似た脳内物質で,セックス, ギャンブル, ゲームなど人間が何かを楽しんでいると感じているときに脳内で発生します.

ドーパミンが放出されやすい人間の営みに共通しているのが, その中毒性です.

セックス中毒やギャンブル中毒, ゲーム中毒やアルコール中毒といった何らかの依存症は脳内の快楽物質であるドーパミンの中毒によって発症します.

ドーパミンそのものは人間に必要なものです. 人間が前向きな気持ちで何かに取り組んだり, 懸命に努力するのはドーパミンによる脳内の報酬システムによる部分が非常に大きいからです.

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しかし一度トレードとなると話が変わってきます.

トレード経験の長い人であれば理解していただけると思うのですが, トレーダーは感情や衝動ではなく, 知性や理性によって取引活動の全てをコントロールする必要があります. しかしドーパミンが脳内で放出されている状態ではそのようにできなくなるのです.

例えば, 後からチャートを見直すとなぜこのようなポイントで取引したのか理解できないと感じるエントリーや, ロスカットできずに損失を無意味に拡大してしまうなど, 本来の自分ならあり得ないミスを犯してしまう原因は, ほとんどの場合ドーパミンの作用によります.

なぜドーパミンはトレードに悪影響を与えるのでしょうか. それはドーパミンに幻覚作用に原因があります.

人間はランダムな情報を与えられるとその中に無意識のうちに自分の望むものを見出してしまう本能があります.

トレーダーは訓練によりその癖をある程度修正できるのですが, ドーパミンが絡むとそのような訓練の甲斐もなく, 現実を正しく認識することができなくなってしまうのです.

世の中にある多くの投資メンタル本はこうした人間の本能的な脳内構造の弱点につけ込んでいます.

問題の本質が脳そのものにあるのに, 考え方を変えたり, 意識をコントロールしたりすれば本当に問題が解決するでしょうか.

トレードのメンタルに関する書籍ではトレーダーが抱える精神的問題は人間の人間らしい心理にあり, 考え方を変えれば, 欲望や恐怖の影響を超越して, 一貫性の扉を開けることができるなどと書かれています.

" 心理的なダメージを受けることなくトレードする秘密の方法がある. これからそれを君に伝授してあげよう " このような言い回しは所謂聖杯取引手法を売り込もうとするグルと非常に似ています.

トレーダーが取引手法に関する聖杯については簡単に嘘を看破できるのに比べて, メンタルに関してはそうできない理由は, 心理学などの学問が背景にあることに起因するようです. つまり " 専門家の意見 " として文章を読むと, その内容が間違っていても簡単に見破ることができなくなるのです.

人の脳がドーパミンに支配されるのは生き物として当たり前のことであって心の弱さとは関係ありません.

意識や思考を変えようとしても無駄です. 人間が人間らしさを捨てようとしても廃人になるだけです.

ドーパミンがトレードの邪魔をするのは事実ですが, 逆にドーパミンを失った人間は, 体が段階的に全く動かせなくなる難病パーキンソン病に罹ってしまいます.

トレードで失敗して「俺は何て心が弱いんだ」と思っている方は安心してください. 取引の成功失敗に心の強さは何の関係もありません.

どうすればいいのか

ではこのドーパミンと上手く付き合うにはどうしたら良いのかということですが, 一番良いのは訓練して脳内の報酬システムを変化させることです.

多くの方が無意識に取引で成功すると自分を褒め, 失敗すると自分を叱っていると思います. 実はこの考え方がドーパミンの悪影響をもたらします. ここを変えるだけで取引結果は激変するはずです.

まずトレードで成功したときはそれほど自分を褒めないようにします.

自分が望むことをせずに, 逆に自分がしたくない用事を片付けるなど, どちらかといえば脳に負担をかける作業を行ってください.

逆に取引でルール通りにロスカットして損をした場合, 多少大袈裟なぐらいに自分を褒めてください.

トレードで成功した時の数倍は褒めてやる必要があります. 前から欲しかったものを買うとか, 行きたかった場所に遊びに行くとか, 好きなスイーツを食べるとか, とにかく褒めちぎることです.

ドーパミンは人間を不幸にさせるための物質ではなく本来を人を幸せにする物質なのです. 重要なのは報酬システムを変化させることです.

このモデルチェンジに成功すればロスカットを喜び, ターゲットヒットを冷静に受け止めることができるようになります.

なぜこの方法が上手くいくのか

鋭い方はこのメソッドが動物の訓練に酷似していることに気づかれたと思います.

詳しくは以下で解説しますが, 人間がトレードに使う脳組織は最も原始的な部分なのです. そのため訓練方法は知的というよりは, どちらかといえば動物的な本能を調教するものに近くなります.

脳の仕組み

人間の脳には大きく分けて二つの領域があります.

一つは大脳辺縁系と呼ばれる大部分を占める組織です. これは人間の原始的な部分を司っています. 対してもう一つは前頭葉と呼ばれる人間が進化の過程で獲得した知的な能力を司っています.

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ある事象について脳がどちらの組織を使って判断を下すか決定するメカニズムには感情が重要な役割を果たします. 感情が昂っていれば脳は原始的な部分である大脳辺縁系で判断を下します. 対して理性的であれば脳は前頭葉で知的な判断を下します.

例えば, ある日森を歩いていたら熊と遭遇したとします. このような状況では咄嗟の判断が必要ですから脳の原始的な部分である大脳辺縁系が機能します.

あれこれ考えている場合ではないのです. 命を守ることを最優先しなければなりません.

逆にカフェで落ち着いて本を読みながら勉強しているときを考えてみてください. このような環境では人間脳は最も理性的な活動をします. 冷静で落ち着いているからです. 前頭葉の出番というわけです.

さて, トレードしている時の精神状態はどうでしょうか. ほとんどの人はおそらく熊に襲われている感覚に近い心理でトレードしているはずです. ですから脳は原始的に判断します. そして原始的な脳の機能はリスクに敏感です.

人類が狩猟をして暮らしていた時代を想像してみてください.

原始時代の人類は今よりも遥かにリスクに敏感にならなければ生き残ることができませんでした. そのため脳の原始的な部分が作用すると, 危険を避けることだけに思考が集中します.

それ以外のあらゆる要素に優先してリスクへの対応に全神経を集中させ, それ以外の事象について考えるのを止めてしまうのです.

すると恐怖の対象だけに思考が集中し, 鼓動が速くなって感情が昂りドーパミンが大量に脳内にばら撒かれます.

そして現実の歪曲化が始まります. 少しでも自分にとって有利な情報やアイデア(リスクを回避するために利用できるもの)を探してそれに飛びつくようになります.

無理な仕掛けをしたり, ロスカットできなくなるのはこれが原因です. 脳は危機的な状況を切り抜けるためにあらゆる手段を試すわけです. しかし残念ながらその試みは全て逆効果となります.

中毒との戦い

理想的な世界では " トレードの判断もカフェで本を読むみたいに前頭葉ですればいいじゃん " となるかもしれませんが, 言うは易し行うは難しです.

まず全てのトレーダーは「トレード中毒」であるという前提があります.

あなたが一度でもトレードでエキサイトした経験があれば, その時点であなたの脳は既に軽いトレード中毒です. これが数ヶ月から数年, さらに数十年となれば, 完全なトレードジャンキーの出来上がりです.

トレードジャンキーの脳はトレードを求めています. 強く強く求めています. それは麻薬やアルコール, ニコチンなどの中毒と同じです. ドーパミンが強力な脳内麻薬であることを考えればそれは当然のことでしょう.

そしてここが重要なポイントなのですが, 脳が求めていることは「トレードそのもの」であって, その結果が利益であるか損失であるかは関係ないのです.

所謂ポジポジ病や, ロスカットできないなどの現象はこのようにして発生します. ポジションを持って取引している状態, 刺激を感じている状態が続きさえすれば脳は満足なわけです.

我々はこのような, 病んで中毒を抱えた脳を回転させてトレードという知的ゲームに勝利しなければならないのです. オッズは想像しているよりも遥かに不利に傾いているのです. これを覆すには問題を一気に解決するような魔法を探すのではなく, 段階的に訓練して少しずつ脳の弱い部分を矯正してやることが必要になります.

前述の報酬システムのモデルチェンジはこの問題に対処します. 脳の原始的な領域を訓練して(調教して)正しい働き方を教えてやることが大切です. ドーパミンの作用は非常に強力ですから, それを正し方向に活用できれば優位に立つことができます.

トレードにおける正しいドーパミンの作用とは利益を喜ばす, 損失に怒らないことです.

そのような思考フローが習慣となれば段階的に理性的に取引できるようになっていきます. 最終的には前頭葉のみで判断してトレードすることも夢ではないということです.

全てのトレーダーは " トレードしたい欲求 " が現実を歪めて認識させる事実を認識し, それを上手くコントロールする必要があります.

取引をする前にまず " 今, 自分は無理にトレードしようとしていないか, 脳内麻薬に操られているんじゃないか? " と自問することが大切です.

ランダムウォークを考える

価格変動の基本的性質について尋ねると, ほとんどの経済学者は " 市場はランダムウォークの性質を持っている " と答えます.

有名な本にウォール街のランダム・ウォーカーがありますが, これはランダムな市場でリターンをあげるほうほうについて考察したものです.

対して, トレーダーに同じ質問をすると回答は概ね " 市場はランダムウォークとは思えない " になります.

現場で市場を観察していると頻繁に " 10 年に一度しか起こらない " とされているような事象が発生するため, そこに強い意図を感じるようになります.

また日中に頻繁に発生するスイングの中にも様々なパターンがみつかるため, 値動きがランダムとは考えなくなるのです.

市場が効率的か非効率的かという問題には諸説あり, 人によって意見が様々です. 今回はマーケットは本当にランダムなのか, それとも必ずしもそうとは言えないのか考えてみます.

ランダムウォーク

まずランダムウォークとは何かを考えみたいと思います.

単純な乱数を考えます. ここでは標準正規分布に従う千個の乱数を計算した結果を示します.

散布図です. 観測値が明確なトレンドを持たずに, 一定の範囲に収まっていることが分かります.

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同じデータのヒストグラムです. 当然分布は乱数の生成元である正規分布に近いものであることが見て取れます.

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次にこの乱数の累積和を求めます. するとデータはトレンドを形成します.

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このデータについてヒストグラムを確認してみると, 分布は明らかに正規分布とは異なる形状をしています.

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要するにランダムウォークとは「誤差の累積する時系列」です. 観測点ごとの誤差が小さくとも, それが累積すると巨大なブレとなってトレンドを形成するのです.

問題はこの時系列がてきとうな乱数から計算されているということです. 計算結果は試行ごとに変化しますから, 情報としての価値はありません.

にも関わらずこのプロットは金融時系列に見えますよね. これが一般に主観的テクニカル分析は機能しないとする主張の裏付けとなっています.

アナリストはランダムな時系列と実際の金融チャートを見分けることができないことは既に証明されています.

つまり人間は本能的にランダムな事象の中に規則性を見つけてしまうのです. しかし対象がランダムであれば実際には規則性などないわけで, そのような分析は無価値なわけです.

木目の中に顔が見えるみたいなものです. オカルティックなものを除いて意味はありません.

ランダムな時系列におけるリスク

ランダムな時系列は確率的不確実性を内包します.

目に見えるチャートは確定した情報に思えるかもしれませんが, データの各エンドポイントで発生しうる値動きは本質的に無限の可能性をはらんでいます.

例えば, 下のグラフを銘柄 X の終値データと考えるとき, 赤線の時点から発生しうる将来の値動きについて, 価格変動の母集団が正規分布に従うと仮定して, 千回シミュレーションしただけでこれだけの可能性が考えられます.

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青線で示された値動きが実現した値動きとすると, 実現値は 1/1000 の確率から選び出された事象であるということです.

実際の市場の値動きは 1/1000 などという確率で表現できるものではなく, 発生しうる値動きの可能性はほぼ無限といっていいと思います.

何しろどのような確率分布にデータが従うかも平均や分散の推定値も分からないのです. さらに確率分布も含めて全ての前提条件が絶えず変化し続けています.

MCMCを使ったパラメータ推定など現代のコンピューターの処理能力の限界をもってしても値動きを完全にシミュレーションすることすらできません.

Google が誇る AI ですら絶対的に勝てるのは将棋や囲碁などのプレイヤーの選択肢が方程式で定義できるテーブルゲームに限定されます.

我々が相手とっている相場がそれほどに複雑なものであることをまず念頭に置く必要があります. その上で少しずつ仮説を基にした堅実な戦略を設計していきます.

非ランダムな時系列

では非ランダムな時系列とはなんでしょうか, それを考えるために, 前回とは異なる分布に従う乱数を考えます.

前提として市場の値動きを完全に表現できる確率分布というものは存在しません. もしそんなものが判明していれば, 統計をかじったトレーダーは全員勝ち組ということになります.

ここではコーシー分布を考えます.

コーシー分布は平均と分散が定義されず, 代わりに最頻値と中央値だけが定義されます. つまり中心と変動範囲が定義されないので, 非常にブレ幅の大きい乱数が生成されます.

一般正規分布を仮定する場合, 対象銘柄の価格は平均と分散が一定で, 常に平均回帰することを前提とすることと同じです.

実際の市場では, 価格は平均回帰などせず, 一度ブレイクすればどこまで進むことがあることはトレード経験が豊富な方なら誰でもご存知のことと思います.

つまり, 正規分布を使うよりも, コーシー分布を使う方が少なくともリスクシミュレーションという観点では現実に近いと考えることができます.

まず, 前回と同様に散布図とヒストグラムを確認します.

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次にこの乱数の累積和を求めるとトレンドを持った時系列になります.

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明らかに突発的な(ニュースや発言による値動きのような)変動が散見される時系列が出てきました.

さらに, 赤線時点からの将来の値動きをコーシー分布でシミュレーションしてみると, 正規分布との違いが明らかになります.

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コーシー分布をベースとした値動きでは想像を絶するほどのリスクが存在することになります.

コーシー分布の式は時折事前に想定できないような外れ値を発生させます. これを実際の市場に当てはめてみると, 例えば決算発表のサプライズや政策金利や各国中央銀行総裁発言による価格変動が該当すると思われます.

恣意的なイベントによる価格変動には様々な種類があり, 例えば北朝鮮がミサイルを発射すると宣言して市場を脅し, 価格が下げたところで買いを入れる方法で利益を上げたことは有名です(悪い例として).

要するに恣意的なイベントによる価格変動があり得るということはインサイダーが存在し, 彼らが儲ける機会があるため, 市場が効率的であるとは言えなくなります.

もっと身近なところで考えると, 何らかのイベントに対する期待やテクニカルなファクターからポジションが偏っているときに, そのリバランスが発生するケースでもサプライズから価格変動は通常よりも大きくなる傾向にあります.

このように, 何らかの偏りや外部要因によるリスクファクターのある市場では, 価格変動は本質的に非効率であり, トレーダーにとっては, この偏りがエッジとなるとわけです.

実際の時系列

では実際の市場はどうなんだよ. というところで, S&P の直近の価格分布を評価してみます.

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一見すると正規分布に近い結果に見えます. しかし時折明らかな外れ値と呼べるような値が発生していることが分かります. 感覚的には正規分布とコーシー分布の中間といったところでしょうか.

ポートフォリオ理論やオプションモデルの多くが正規分布を価格に想定するのは, 市場の値動きが本質的には正規乱数に近いからです.

しかしリスク管理という観点からすると, 明らかにリスクが一定範囲の平均・分散から推定される範囲に収まると考えることはできません.

さらに 2013 ~ 2016年度について, それぞれのリターン分布を確認してみます.

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ここから読み取れるのは, 市場は期間によって従う母集団も, そのパラメーターも異なるということです.

ここから固定的なパラメーターのシステムが機能しないのは当然と言えます. また単一のモデルが長期的に利益を上げるのも難しいでしょう(特にリスク管理という観点から).

結論

結論としては, 市場はかなりの期間において正規乱数から想定されるランダムノイズに従って変動し, その期間は平均回帰を前提としたストラテジーが機能します.

ただし, 何らかの外部ファクターにより, ポジションの偏りが生じたとき, そのリバランスにより大きなリスクが発生する可能性があり, その変動が大きな取引機会であると同時にリスクともなり得ます.

市場のランダムな値動きについて考えるとき, いつも思い出すピーター・ステイドルマイヤーの言葉があります.

トレードを助けるためには, 市場はどうしてもトレンドを形成しなければなりません. トレンドを形成しなかったら, 皆, 資金を引き上げてトレードをやめてしまいます. そうなったら, 市場は結局死んでしまいます.

マーケットはそれ自体が生き残るために長期的に見れば必ずトレンドを形成します. ただし, それがいつになるかは誰にも分かりません. 現在の環境を見極め, 適切な戦略を模索していくことが生き残りの鍵となるでしょう.

バックテストの誤謬

自分自身のこれまでのトレーダーとしての経験について, 成功していた時期, 失敗していた時期, 安定していた期間, 不安定だった期間について振り返ってみると, それぞれの期間に明確な特徴があることに最近気付きました.

今回の記事ではその内容について記録しておきたいと思います.

上手くいかない時期に自分が重視していたもの, そのほとんどは「過去のデータ」でした.

裁量にせよシステムにせよ検証をする場合, 過去のデータを使用します. これはもはや常識となっていて, ほとんど疑う余地すらありません. しかし, その過去のデータを使ったテストそのものが大きな失敗の原因となっていたのです.

システムトレーダーも裁量トレーダーも検証をします. 過去のデータに自分の戦略を当てはめて, そこからはじき出されたテスト結果を確認することでエッジを発見できると考えています. しかし現実にはバックテストレポートは戦略の有効性について何一つ証明しません.

たとえ一秒でも過去のことは過去のことであり, 現在とは無関係です. 昔の自分はそれが理解できていませんでした.

モンテカルロシミュレーションを使ったり, ブートストラップを使ったりすることで過去データに対する検証精度を向上しようと努力したことがありましたが, 今にして思えば全て無駄なことです. 過去のデータでしかないものをどれだけサンプリングしたところで時間の無駄です.

過去と現在ではあらゆることが異なります. 市場の環境も出来高も参加者の顔ぶれも, 全てが違うのです. そのような環境でどのようなヒストリカルデータを使った検証も絶対に意味を持ちえません. 過去のデータに対する科学的検証はいかなる意味も持ちません.

このように書くと多くの方が, マーケットには繰り返されるパターンがあり, それを利用するシステムを組めば値動きを捉えられるはずだと反論するでしょう.

確かにその見解はある程度は正しいのですが, パターンは毎回完全に一致することはあり得ません そして毎回発生する僅かなズレがシステムという静的なモデルを長期に渡って運用した場合に, 救いがたいほど大きなブレをリターンにもたらしてしまいます.

自分の収益が安定するようになったのは, 過去データのテスト対する執着を捨て, 自分の全分析を市場の現在に対する評価のみに集中させるようになってからでした.

今の僕は過去のデータにおいて全く有効でないことが示されているシステム(収益曲線が右肩下がりまたは横ばい)でもポートフォリオに加えることがあります. そして多くの方には信じられないでしょうが, そのようなシステムが有効であることは非常に多いです.

過去データでシステムが有効であったかは全く重要ではありません. 今現在ストラテジーが有効である根拠を仮説として立証できて, フォワードテストで期待通りの結果が得られればそれで十分なのです. その場合システムのエッジが示す根拠は明白です. 市場環境を観察してそのエッジが消えたと判断したらそのシステムの運用を停止します. 過去は関係ありません. 現在市場がどのようであるかだけが重要なのです.

トレードに対するアプローチを決めるとき, システムトレードを選択する方の多くは安定またはストレスの軽減を求めていると思います. しかし逆説的なのですが, 安定を求めるほどリターンは不安定になります.

現在のトレードに過去のデータを使った検証が役立たないということは, 要するに何の保証もない場所でリスクを取り続けなくてはならないということです. これはとても恐ろしいことです. ですから多くの方はバックテストで利益が保証されたモデルを使って取引しようとします. しかし実際にはバックテストは何も保証しません. レポートが与えてくれる安心感は仮初のものです.

トレードという世界に取り組む時点でどのような安定もあり得ません. そもそも安定や保証のある人生を望むならベストな選択肢は国家や企業に死ぬまで献身的に仕えることです. トレーダーになった時点で不安定でリスキーな人生を覚悟する必要があります. しかしそれができない人が非常に多いのです. そういう方はトレードに関わらない人生を選択すべきです.

どうしてもシステムトレーダーはバックテストを神聖視してしまいます. 過去のデータを使用したテストの結果が右肩上がりであれば, このストラテジーは継続的に自分に富を約束してくれると本能的に考えてしまうのです. しかしそれはマーケットの現実を考えていないと言えます.

真実は「一秒前のことですら過去である. 現在と過去は完全に無関係であり, 過去のデータは現在がどうであるか, また未来がどうなるかを何一つ保証しない」ということです. そして科学的に正しいバックテストなど存在しません. 強いて言えばバックテストという行為そのものが科学的に正しくありません.

無法の世界

データ分析は正直すぎる

新聞を開けば AI ネットを見ても AI どこにでも AI が登場する AI 全盛時代ですが, 個人的にその傾向には警鐘を鳴らしたい(笑).

僕も市場分析には統計解析や機械学習を使用していますが, そのようなアプローチで分析可能な領域は価格変動の持ちうる可能性全体に対して極めて限定的な範囲に留まると考えています.

定量解析は価格が現在どのような状態にあるかを正確に評価するのが非常に得意です. しかし, 価格の現在の状態と将来の状態に関係性が生じないのがカオス時系列です.

直近の価格情報を基に市場の強弱を測定し, それに基づいてシグナルを生成するストラテジーを設計しても, そのような素直すぎるポジションは目ざといトレーダーにより簡単に狙われてロスカットとなってしまいます.

定量解析は過去の価格変動に対する数値解析をベースとします. 価格がランダムウォークする投機市場では過去の価格変動と未来の価格変動の間に因果関係がありませんからヒストリカルデータを分析しただけでは将来の予測ができないのです.

どんなに複雑なアルゴリズムを使おうと, 絶対にこの定義を覆すことは不可能です.

単純な移動平均ロジックでも, 機械学習でも, なんら変わりません. 分析対象としているデータの問題です.

これが例えば画像認識の世界なら話が違います.

スマホの顔認証とかで使われる技術では, カメラから取得した画像データを過去の本人画像と比較して適合度を判定するのですがこの場合, 正解がランダムに変化したり, 外部環境が激変するようなことは滅多に起こりません.

単純に精度の問題ですから, より高度な技術を使うことでモデルの予測能力は確実に向上します.

対して市場では未来の将来の価格は常にランダムに決定されますし, ファンダメンタル環境の変化によりダイナミックに値動きの特性が転換します. このようなデータを扱う場合, モデルを高度に複雑化してもリターンは改善しません.

「ストラテジーコンセプトはシンプルに」という決まり文句はここからきているわけです.

モデルの高度さ, 複雑さが収益と無関係であるとすれば, どのような要素がモデルの収益率を高めることに繋がるかを考える必要があるということになります.

そのためには「ターゲットとする値動きを明確化して最適なモデルを設計する」プロセスが必要になります.

マーケットとは何か

僕はマーケットを「合法的に金の奪い合いができる場所」と捉えています. カジノとかに似ていますね. 

勿論それだけが全てではありませんが, 投機に賭博的側面があることは事実です.

ギャンブルとトレードで似ている部分はたくさんありますが, その一つが収益源です.

ギャンブルで利益を得るには他の参加者のベッドした賭け金を奪うことがベースコンセプトとなります. この場合, ギャンブラーの収益源は他の参加者の掛け金です.

ここは相場と共通していますね. 短期トレードにおいて, トレーダーの収益源は常に他の参加者の賭け金です.

他方でギャンブルとトレードで異なる点もあります. それは現実社会との関係性です.

カジノで使われたカードの枚数や出たサイコロの目が現実社会に影響与えることはあり得ません.

対して市場の価格変動は直接的に実体経済に影響を与えます. 換言すれば, 金融マーケットは純粋に投機的なギャンブルとしての側面と, 実体経済とのインタラクティブな関係性という 2 つのファクターが同時に共存する場所といえます.

よく投資本にファンドの年利が 10% とか 20% とか紹介されていますが, そのようなファンドが使用しているロジックはマーケットの実体経済的側面にフォーカスしたものであることが多いです.

彼らはテクニカル分析を使用することはなく, 関係筋の情報ネットワークを基に長期予測を組み立てて, ポジションを構築し, 数ヶ月から数年間保有を継続するようなモデルを採用します.

ポートフォリオによる分散や資金管理ロジックが重視され, リスク管理について高度なアルゴリズムが適用されます. また市場の不確実性についてもマーケットニュートラル戦略(ターゲットとする値動きに付随するノイズをヘッジポジションにより相殺する)を採用することで回避することを試みます.

これがプロップファームとか新進気鋭ファンドとかになってくると話が違っていて, かなり大きなリスクテイクをしますから 100% を超えるリターンとかザラにあります. 逆にとんでもないドローダウンを出すファンドも沢山あります. リターンの標準偏差が大きいわけです.

彼らの収益源は他の参加者のロスカットです. 様々な手法を使ってより多くのトレーダーのロスカットが集中するポイントに価格を誘導しようとします. また取引は非常に短期的で, 他の参加者の賭け金を巻き上げると素早く資金を引き上げてしまいます.

彼らは短期的なエッジを活用して, 賞味期限が切れるまで利益を絞り出し, エッジが消えたと判断したら次々に戦略を切り替えていきます.

このため, 短期的にみると値動きは極めてランダムなものになります. ランダムにモデルを変化させる参加者同士の資金の奪い合いが相場を形成するからです.

他方で長期的にみると値動きは実体経済を反映して, 明確な特徴を持ったデータとなります. 中央銀行の政策や企業収益などの影響が市場で顕在化するには一定の時間が必要なのです.

最適なメソッド

投資リターンを投機市場で狙う為には十分な資金量とポートフォリオ戦略に加えて, ヘッジ戦略も必要になります. その上でリターンは年利 10% とか 20% になります.

このような戦略が実装できない, またはリターンに満足できない場合, 投機市場でトレードすることになります.

そこで生き残るにはどうすれば他人の金を奪えるか, どうすれば他人から金を守れるかを徹底的に考えることが必要になります.

どのような目標を持ってトレードに取り組むのかは人それぞれです.

年金を安定的に長期運用したい人もいれば, 少ない資金をアグレッシブに回転させて一獲千金を狙う人もいるでしょう.

その全てに共通する前提として:

  • 達成したい目標が非現実的なものであるほど, 取引期間は短期的となり, 実装するストラテジーの投機性が高まる.
  • 達成したい目標が安定的なものであるほど, 取引期間は長期的となり, 実装するストラテジーは高度に複雑化される.

このことを忘れないことが大切です.

自分の投資目的を明確をにして, 目的に沿ったストラテジーを設計する必要があります. あなたが参加するフィールドで待ち構えている他の参加者がどのような面子であるのか知らなければなりません.

悪質なシグナル販売者

自動売買可能なプラットフォームが一般的となったことで, シグナル販売を手がける業者が増えました.

最近では Twitter や Note を通してシグナルの販売を行う人もいます.

しかし, 実際にシグナルを購入した人の声を聴くと, 多くの方が「思っていたような結果が出ない, 騙された」と感じているようです.

投資詐欺って世間ではよくあることで, 証券会社を名乗る団体から有名銀行の末端社員まで, あらゆる層の金融に関わる人々が詐欺行為に走ることが残念ながらよくあります.

果ては大学生まで投資詐欺に手を出しました. 最近の事件はよく知られていますね. 所謂トラリピのようなシステムを数十万円で無理矢理売りつけたそうですが, 手口が荒すぎて簡単に逮捕されてしまいました.

取引システムの販売なんて簡単な登録をするだけで誰でもできるので当然詐欺が横行します.

しかもシステムのリターンを誤魔化す方法は無数にあるため, 真偽を見極める作業はなかなか骨が折れるのです.

勿論一番良いのは自分でシステムを設計, 開発, 運用するスキルがあることです. 他人が書いたブラックボックスのプログラムに虎の子の資金を任せるなんて僕は怖くてできません.

でも, 世のトレーダーの大多数がプログラミングスキルがないことは知られていますし, 個人的な経験からいっても知識やスキルとトレードで儲けられるかは別問題です.

投資プラグラミングについてよく知らないトレーダーが, あるときは楽するため, あるときはガイドとするため, あるときは違法行為のために他者からのシステム購入を求めるのは自然なのかなと思います.

ただし, シグナルには「正しい評価基準」というものがあって, それを知らないと絵に描いた餅みたいな分かりやすい手口にも簡単に騙されることになります.

大切な資金が減りますし, こころならずも不正行為を働く人間が儲けるという世にあるまじき行為に加担してしまうことになります.

この記事ではシステムが本当に収益を上げることができるのか見極めるための方法を紹介します.

システムの真偽を見極めることができれば, 悪質な販売者に簡単に騙されることもありませんし, 販売者に悪意がなかったとしても, 正しくテストされていない不完全なシグナルを購入してしまうリスクを避けることができます.

有効なシステムの定義

まず前提となる, 利益に繋がる有益なシグナルの定義を改めて確認します.

有効で購入価値のあるシグナルとは 1000 人が取引すれば 1000 人が全く同じポイントでエントリーすることになり, かつ長期的にその全員が利益を得るものです.

つまり, シグナルが 100 % 客観的 / 定量的な数理モデルに従って発生するものでなければ購入価値はありません.

取引実績らしきものが添付されていたとしても, その結果が販売者の主観的な投資判断に基づくものであれば, リターンが長期的に安定する保証はどこにもありません.

昔流行った情報商材やトレード教室的なものでは, ラインの引き方や特殊な指標を使った手法などをパッケージ販売していましたが, こういった商品は一切購入すべきではありません.

販売者の主観的な分析術が干渉した段階で, どのような肯定的データが開示されていようと再現性のない無価値な商材だからです.

正しいバックテスト

あらゆるシステムの販売には常にバックテストが関係します.

システムを販売するには, システムのリターンをプレゼンする必要があり, そのための資料を提供するにはバックテストを行う必要があるからです.

しかしバックテストにも様々な形式があります.

例えば ForexTester のようにデータをプレイバックして裁量取引を行い, その結果をバックテスト結果として開示することもできます.

ここまで読んでいる方なら理解できると思いますが, そのようなバックテストは全く意味がありません.

裁量判断によるバックテストなど, 同じデータを使って 100 回テストしたら 100 回とも異なる結果がでてもおかしくないからです.

また, データ分析の世界で有名な考え方として「テストはデータを消費する」というものがあります.

同じデータについて繰り返しテストを行うと, 無意識のうちにそのデータに対する理解が深まってしまい, テストを繰り返すごとに分析結果に経験値が影響してしまう.

換言すればデータはテストされる度に消費されるから有効に活用できるのは最初の一度だけだ, という考え方です.

同じモデルを使って, 同じデータをテストし続けることは練習にも学習にもなりません. 無意味なのでやめましょう.

ここまでの話は裁量的なバックテストが無価値であるということですが, 定量的なバックテストが無価値となるケースも非常に多くあります.

代表的なものとして:

  • 過剰最適化によるカーブフィット
  • テスト対象のデータ期間が短すぎる
  • システムの取引回数が少なすぎる
  • ナンピン, ピラミッティングを含んだシステム
  • 非標準タイプのチャートを使ってテストしている(平均足など)
  • リペイントする指標を使ってテストしている
  • 指値, 逆指値を使ったシステムで約定設定に不備がある
  • コスト計算モデルに狂いがある.

などが挙げられます.

このように正確なバックテストをするのは非常に骨が折れる作業であり, 簡単にはいきません.

ですから, 何らかのシステムを購入する場合必ず手元の取引プラットフォームでストラテジーをテストさせてくれるように販売元に依頼してください.

また, ソースコードの開示までは難しいかもしれませんが(できればそれがベストだけど), 確認が必要な項目についてまとめた質問書を送って回答を待ってみるべきでしょう.

チェックリスト

販売されているシステムを購入する場合, 派手な宣伝文句に踊らされるのではなく, 商品のプレゼン資料について以下で紹介するチェックリストの要件を満たしているか冷静に分析してみることをお勧めします.

  • ストラテジーの基本的なコンセプトが公開されているか.
    • 特定の期間, 特定のブローカーのシステムの穴を突いたようなストラテジーの場合, 公開されているモデルは既に機能しなくなっている可能性があります(勝てなくなったから晒すケース).
    • 故に特定のブローカーでのリアル売買レポートなどの実績を示す証拠が添付されていたとしても, それが将来のリターンを保証することはありません.
  • バックテストを購入者サイドのプラットフォームで実行できるか.
  • シグナルが 100% 客観的なアルゴリズムによって生成されているか, 販売者の主観的な投資判断がリターンに反映されていないか.
  • 長期パフォーマンスが公開されているか(10 年以上), パフォーマンスは安定しているか.
  • タイムフレームや銘柄を限定していないか.
    • これが一番多いです. まともなシグナルモデルが取引対象を特定のタイムフレーム, 銘柄に限定することはまずありません.
    • 考えてみれば分かることなのですが, 銘柄 A の値動きが明日から昨日までの銘柄 B に酷似したものになる可能性が常にあるわけです. このとき銘柄 A でしかリターンが確保できないモデルを運用していれば悲惨な結果が待っています. タイムフレームについても同様です.
  • マネーマネジメントロジックがモデルに含まれていないか.
    • 金管理ロジックはモデルと切り離されて扱われるべきであり, シグナルを販売するときにプレゼン資料に含めるべきではありません.
    • 指数関数的な資産曲線が資料に示されている場合, そのシグナルは現実の市場では機能しないと考えた方がいいです.
    • ナンピンやピラミッティングを含むシグナルはパフォーマンスの精度がごまかされています. 玉操作の影響を除去したモデルのパフォーマンスを公開するように販売者に問い合わせてみてください. 拒否されればそれは詐欺です.
  • パラメータを最適化したパフォーマンスが提供されていないか.
    • 仮にパラメータの最適化が実行されている場合, パラメータごとのリターンの推移を示す追加資料が必要です(具体的には3次元のパラメータ分布のプロットなど).
    • 最適化の3次元プロットが公開されている場合, 幅広いパラメータ範囲で利益が出ているかを確認してください.

如何でしょうか.

既にシステムの購入経験があり, 失敗経験がある方はおそらく, このチェックリストのいずれかに該当するシグナルを購入してしまったのだと思います.

そもそも市場参加者全体で長期的にリターンを安定させることができるのは上位 5% と言われています.

シグナル販売の HP などには利益を得られる(と主張している)システムが無数にアップロードされているのを見れば, その全てが利益に繋がることなどあり得ないことはすぐに分かることです.

試算曲線の形状評価

上記の内容を確認すれば, 基本的に詐欺システムを購入することはないと思いますが, 念のためリターンを示す資産曲線グラフから, モデルの真偽を評価する簡単な方法を紹介します.

指数関数形状

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資産曲線がこのような形状である場合, ほぼ間違いなく資金管理ロジックがモデルに含まれています.

またモデルが最適化されている確率が高いです. そのような場合実際の市場でシグナルは機能しません.

斜線形状

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資産曲線が斜め上に向かってノイズを含みながら増加していく形状であれば, 間違いなくナンピン(アベレージダウン)戦略です.

このようなシステムが実際の市場で機能することはまずありません. リアル口座で運用するのは大変危険です.

ノイズ過多の形状

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悪くはありませんが, 極端にモデルが苦手とする値動きがあることが分かります.

実際に運用してみると分かるのですが, 長いシステムのフラットタイム(=ドローダウン期間)は想像以上の心理的ダメージにつながります. 注意してください.

ノイズ安定の形状

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資産曲線の形状は安定しておりノイズも小さいため健全なパフォーマンスが期待できます.

結論

人間は欲望に弱い生き物です.

目の前に儲け話が転がっていると, つい考えなしに手を出してしまいます.

だから詐欺がなくならないのです.

重大な判断を下すときは自我を抑制し, 理性的 / 客観的に物事を判断しなくてはなりません. そこにお金が絡むときは尚更です.

昔はネットにも誠実な情報がたくさんあったのですが, ネットで儲ける的な概念が横行してからは, 右を見ても左を見ても虚飾に溢れた記事ばかりが転がっていて, 厳しくも有益な情報発信者がいなくなってしまいました.

今やネットはゴミ貯めです.

思い出してください. 綺麗なバラにはトゲがあるし, うまい話には裏があるのです.

この記事で紹介したシグナルの評価尺度が少しでも多くの人の役に立つことを願っています.