Takehana Lab

System Trading : MultiCharts, TradingView, Python, R

悪質なシグナル販売者

自動売買可能なプラットフォームが一般的となったことで, シグナル販売を手がける業者が増えました.

最近では Twitter や Note を通してシグナルの販売を行う人もいます.

しかし, 実際にシグナルを購入した人の声を聴くと, 多くの方が「思っていたような結果が出ない, 騙された」と感じているようです.

投資詐欺って世間ではよくあることで, 証券会社を名乗る団体から有名銀行の末端社員まで, あらゆる層の金融に関わる人々が詐欺行為に走ることが残念ながらよくあります.

果ては大学生まで投資詐欺に手を出しました. 最近の事件はよく知られていますね. 所謂トラリピのようなシステムを数十万円で無理矢理売りつけたそうですが, 手口が荒すぎて簡単に逮捕されてしまいました.

取引システムの販売なんて簡単な登録をするだけで誰でもできるので当然詐欺が横行します.

しかもシステムのリターンを誤魔化す方法は無数にあるため, 真偽を見極める作業はなかなか骨が折れるのです.

勿論一番良いのは自分でシステムを設計, 開発, 運用するスキルがあることです. 他人が書いたブラックボックスのプログラムに虎の子の資金を任せるなんて僕は怖くてできません.

でも, 世のトレーダーの大多数がプログラミングスキルがないことは知られていますし, 個人的な経験からいっても知識やスキルとトレードで儲けられるかは別問題です.

投資プラグラミングについてよく知らないトレーダーが, あるときは楽するため, あるときはガイドとするため, あるときは違法行為のために他者からのシステム購入を求めるのは自然なのかなと思います.

ただし, シグナルには「正しい評価基準」というものがあって, それを知らないと絵に描いた餅みたいな分かりやすい手口にも簡単に騙されることになります.

大切な資金が減りますし, こころならずも不正行為を働く人間が儲けるという世にあるまじき行為に加担してしまうことになります.

この記事ではシステムが本当に収益を上げることができるのか見極めるための方法を紹介します.

システムの真偽を見極めることができれば, 悪質な販売者に簡単に騙されることもありませんし, 販売者に悪意がなかったとしても, 正しくテストされていない不完全なシグナルを購入してしまうリスクを避けることができます.

有効なシステムの定義

まず前提となる, 利益に繋がる有益なシグナルの定義を改めて確認します.

有効で購入価値のあるシグナルとは 1000 人が取引すれば 1000 人が全く同じポイントでエントリーすることになり, かつ長期的にその全員が利益を得るものです.

つまり, シグナルが 100 % 客観的 / 定量的な数理モデルに従って発生するものでなければ購入価値はありません.

取引実績らしきものが添付されていたとしても, その結果が販売者の主観的な投資判断に基づくものであれば, リターンが長期的に安定する保証はどこにもありません.

昔流行った情報商材やトレード教室的なものでは, ラインの引き方や特殊な指標を使った手法などをパッケージ販売していましたが, こういった商品は一切購入すべきではありません.

販売者の主観的な分析術が干渉した段階で, どのような肯定的データが開示されていようと再現性のない無価値な商材だからです.

正しいバックテスト

あらゆるシステムの販売には常にバックテストが関係します.

システムを販売するには, システムのリターンをプレゼンする必要があり, そのための資料を提供するにはバックテストを行う必要があるからです.

しかしバックテストにも様々な形式があります.

例えば ForexTester のようにデータをプレイバックして裁量取引を行い, その結果をバックテスト結果として開示することもできます.

ここまで読んでいる方なら理解できると思いますが, そのようなバックテストは全く意味がありません.

裁量判断によるバックテストなど, 同じデータを使って 100 回テストしたら 100 回とも異なる結果がでてもおかしくないからです.

また, データ分析の世界で有名な考え方として「テストはデータを消費する」というものがあります.

同じデータについて繰り返しテストを行うと, 無意識のうちにそのデータに対する理解が深まってしまい, テストを繰り返すごとに分析結果に経験値が影響してしまう.

換言すればデータはテストされる度に消費されるから有効に活用できるのは最初の一度だけだ, という考え方です.

同じモデルを使って, 同じデータをテストし続けることは練習にも学習にもなりません. 無意味なのでやめましょう.

ここまでの話は裁量的なバックテストが無価値であるということですが, 定量的なバックテストが無価値となるケースも非常に多くあります.

代表的なものとして:

  • 過剰最適化によるカーブフィット
  • テスト対象のデータ期間が短すぎる
  • システムの取引回数が少なすぎる
  • ナンピン, ピラミッティングを含んだシステム
  • 非標準タイプのチャートを使ってテストしている(平均足など)
  • リペイントする指標を使ってテストしている
  • 指値, 逆指値を使ったシステムで約定設定に不備がある
  • コスト計算モデルに狂いがある.

などが挙げられます.

このように正確なバックテストをするのは非常に骨が折れる作業であり, 簡単にはいきません.

ですから, 何らかのシステムを購入する場合必ず手元の取引プラットフォームでストラテジーをテストさせてくれるように販売元に依頼してください.

また, ソースコードの開示までは難しいかもしれませんが(できればそれがベストだけど), 確認が必要な項目についてまとめた質問書を送って回答を待ってみるべきでしょう.

チェックリスト

販売されているシステムを購入する場合, 派手な宣伝文句に踊らされるのではなく, 商品のプレゼン資料について以下で紹介するチェックリストの要件を満たしているか冷静に分析してみることをお勧めします.

  • ストラテジーの基本的なコンセプトが公開されているか.
    • 特定の期間, 特定のブローカーのシステムの穴を突いたようなストラテジーの場合, 公開されているモデルは既に機能しなくなっている可能性があります(勝てなくなったから晒すケース).
    • 故に特定のブローカーでのリアル売買レポートなどの実績を示す証拠が添付されていたとしても, それが将来のリターンを保証することはありません.
  • バックテストを購入者サイドのプラットフォームで実行できるか.
  • シグナルが 100% 客観的なアルゴリズムによって生成されているか, 販売者の主観的な投資判断がリターンに反映されていないか.
  • 長期パフォーマンスが公開されているか(10 年以上), パフォーマンスは安定しているか.
  • タイムフレームや銘柄を限定していないか.
    • これが一番多いです. まともなシグナルモデルが取引対象を特定のタイムフレーム, 銘柄に限定することはまずありません.
    • 考えてみれば分かることなのですが, 銘柄 A の値動きが明日から昨日までの銘柄 B に酷似したものになる可能性が常にあるわけです. このとき銘柄 A でしかリターンが確保できないモデルを運用していれば悲惨な結果が待っています. タイムフレームについても同様です.
  • マネーマネジメントロジックがモデルに含まれていないか.
    • 金管理ロジックはモデルと切り離されて扱われるべきであり, シグナルを販売するときにプレゼン資料に含めるべきではありません.
    • 指数関数的な資産曲線が資料に示されている場合, そのシグナルは現実の市場では機能しないと考えた方がいいです.
    • ナンピンやピラミッティングを含むシグナルはパフォーマンスの精度がごまかされています. 玉操作の影響を除去したモデルのパフォーマンスを公開するように販売者に問い合わせてみてください. 拒否されればそれは詐欺です.
  • パラメータを最適化したパフォーマンスが提供されていないか.
    • 仮にパラメータの最適化が実行されている場合, パラメータごとのリターンの推移を示す追加資料が必要です(具体的には3次元のパラメータ分布のプロットなど).
    • 最適化の3次元プロットが公開されている場合, 幅広いパラメータ範囲で利益が出ているかを確認してください.

如何でしょうか.

既にシステムの購入経験があり, 失敗経験がある方はおそらく, このチェックリストのいずれかに該当するシグナルを購入してしまったのだと思います.

そもそも市場参加者全体で長期的にリターンを安定させることができるのは上位 5% と言われています.

シグナル販売の HP などには利益を得られる(と主張している)システムが無数にアップロードされているのを見れば, その全てが利益に繋がることなどあり得ないことはすぐに分かることです.

試算曲線の形状評価

上記の内容を確認すれば, 基本的に詐欺システムを購入することはないと思いますが, 念のためリターンを示す資産曲線グラフから, モデルの真偽を評価する簡単な方法を紹介します.

指数関数形状

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資産曲線がこのような形状である場合, ほぼ間違いなく資金管理ロジックがモデルに含まれています.

またモデルが最適化されている確率が高いです. そのような場合実際の市場でシグナルは機能しません.

斜線形状

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資産曲線が斜め上に向かってノイズを含みながら増加していく形状であれば, 間違いなくナンピン(アベレージダウン)戦略です.

このようなシステムが実際の市場で機能することはまずありません. リアル口座で運用するのは大変危険です.

ノイズ過多の形状

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悪くはありませんが, 極端にモデルが苦手とする値動きがあることが分かります.

実際に運用してみると分かるのですが, 長いシステムのフラットタイム(=ドローダウン期間)は想像以上の心理的ダメージにつながります. 注意してください.

ノイズ安定の形状

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資産曲線の形状は安定しておりノイズも小さいため健全なパフォーマンスが期待できます.

結論

人間は欲望に弱い生き物です.

目の前に儲け話が転がっていると, つい考えなしに手を出してしまいます.

だから詐欺がなくならないのです.

重大な判断を下すときは自我を抑制し, 理性的 / 客観的に物事を判断しなくてはなりません. そこにお金が絡むときは尚更です.

昔はネットにも誠実な情報がたくさんあったのですが, ネットで儲ける的な概念が横行してからは, 右を見ても左を見ても虚飾に溢れた記事ばかりが転がっていて, 厳しくも有益な情報発信者がいなくなってしまいました.

今やネットはゴミ貯めです.

思い出してください. 綺麗なバラにはトゲがあるし, うまい話には裏があるのです.

この記事で紹介したシグナルの評価尺度が少しでも多くの人の役に立つことを願っています.